Archive for the ‘映画レビュー’ Category

12月

16

どんな人にも背後には育った環境やこれまでの人生、事情その他抱えきれないたくさんのものがあるのよね。「スリー・ビルボード」

By ono



 ↑のタイトル通りのことを思ったわけですけれども。生まれながらに善い人・悪い人というのはいないわけで、育った環境や地域、歴史、家族、その他山ほどの干渉があって現在のその人がある訳。そんなことを突き詰めていくと、どんな人にもその人なりの「理由」があってぶつかったりわかりあったような気になったりする。そういう人々の当たり前の話を、映画という短い時間の中で雄弁に語られると、それはもうしてやられたなって感じるのです。2017年の映画としてアカデミー賞で主演女優賞・助演男優賞を受賞した作品、「スリー・ビルボード」をご紹介します。

あらすじ
 アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に、3枚の広告看板(ビルボード)が設置された。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」、と。7カ月前に娘を殺されたミルドレッドが、何の進展もない捜査状況を糾弾すべく、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める…。

脚本が素晴らしい、それ以上に役者の方が素晴らしい
 娘がむごい殺され方をしたのに、全く捜査を進めるつもりがないのは警察の怠惰だ、とミルドレッドは戦うのね。だけど、会ってみるとウィロビー署長というこの人、丁寧だし誠実な人柄。おまけに実は不治の病で余命も残り少ないのに仕事をこなしている、ときたら、警察のみならず街の人みんなから慕われているのです、当然。だけど、だからこそ、ミルドレッドは納得がいかない。いくわけがない。街の人には嫌われ、警官には嫌がらせを受け、孤立していく彼女。そこに、一つの事件が起きてしまい、事態は更に混沌としてゆくのです。
 ネタバレになるのでこれ以上は説明しませんけど、結果から言うと本当に素晴らしい映画でした。観終わった後、何とも言えない心地良い気分になるのです。あのクソムカつく警官も、忌々しい元DV夫のチャーリーも、ウィロビー署長も、みんなを愛おしいと感じるんですよね。冒頭でも書きましたけど、人物の環境や人となりがきちんと描かれていて、起きることすべてがリアルで親身に感じました。トラブルや事件で人は傷つき、憎しみは消せないけれど、それでも誰も悪くない。それがまた切ない。それが痛いほど伝わるのも素晴らしい演技あってこそ。

「取り残された白人」、ヒルビリー
 日本人の我々にはなかなか理解が難しいのが、アメリカの格差問題。この映画の舞台はミズーリ州にある架空の街エビングですが、架空ではあるけれど、ミズーリ州でなければならない理由があるのですね。それは、ミズーリ州が「貧しい田舎者」として差別される側にある白人、「ヒルビリー」の州だから。典型的なのが警官のディクソンですね。家が貧しく、学がなく、黒人は殴り、仕事もひどく怠惰。そんな彼を署長代理のアバークロンビーは「貧乏白人め」と言い捨て、彼は「差別するのか」と怒ります。ここ、英語では「mother-fucker/マザーファッカー(普通の?悪口)」なのに、字幕は敢えて「貧乏白人」としていました。ミズーリ州のヒルビリーが差別され、見下されているということを伝える必要があったのですね。
 そうしたミズーリ州の人たちを彼らのバックボーンも含めて真摯な?眼差しで描いているのもこの映画の素晴らしさだったと言えます。

ミルドレッド役の女優さんが格好良すぎです
 ↑前述のようなアメリカが抱える問題を浮き彫りにしているってことも映画の評価が高い理由の一つなんですけど、我々は結局、わかったつもりでいたとしても当のアメリカ人のように切実に感じることはできませんのでね。ここは、知ったかぶりを捨てて、素直にクライム・サスペンス及び人間ドラマを楽しむのが吉です。
 ミルドレッド役の女優、フランシス・マクドーマンドはこの役で主演女優賞を獲得。男前で格好良くて、渋くて、けれども悩みを抱えて葛藤があって、っていう女性を見事に表現していました。納得。
 この方、以前観た「ファーゴ」で女性署長のマージさんを演ってまして。これがまた男前で格好良くて優しくて、という、今回のミルドレッドともちょっとキャラがかぶるような素敵な署長を演じてます。しかもこの映画でもアカデミーで主演女優賞を受賞。さすがです。「ファーゴ」も以前簡単に紹介しましたけど、話の展開がどんどん転がってゆく予想のつかない展開で、本当にオススメですよー。

 そんなわけで、映画「スリー・ビルボード」の紹介でした。主演のマクドーマンドさん、存在感のある役をされてますので、是非「ファーゴ」や「あの頃ペニー・レインと」もご覧になってはいかがでしょうか。

  

10月

27

家族のあり方に答えはあるのかしらね・・・?映画「ギフテッド」

By ono



7歳の子供に教わる「本当の幸せ」
 私には子供がいないので偉そうなことは何一つ言えないわけですけど、一つ感じるのは、子育てに真剣に向き合っている人は素晴らしいなということです。そんなわけで、「家族」、「愛」、「人生」、「自分らしさ」生きていく上でとっても大切な問題を素敵に描いた映画「ギフテッド」を紹介します。

あらすじ
 フロリダで、ボートの修理をして生計を立てている独り身のフランク(↑写真右)。彼は、天才数学者だったが志半ばで自殺してしまった姉の一人娘、メアリー(↑写真中央)と暮らしている。メアリーは先天的な数学の天才児“ギフテッド”であることが知れると、周りは特別な教育を受けるよう勧めるが、フランクは「メアリーを普通に育てる」という姉との約束を守っていた。ところが、レベルにふさわしい教育をするべきだ、というフランクの母イブリンが現れ、親権問題で訴えられてしまう・・・(20世紀フォックスHPから

 メアリーの神童っぷりはものすごくて、祖母のイブリンがマックブックをお土産に持ってきて、「中に本がたくさん入ってるわよ、チャールズ・ジマーの”代数学の発展”とか」って言うと、「ああ、あの本大好き、今は微分方程式の方が好きだけど」とか言ったりするのね。恐ろしい7歳だわよ。
 イブリンは自分の娘ダイアン(=メアリーの母親)に熱心に数学の教育を施して、「ナビエ–ストークス方程式の証明」とか言う誰もまだ解いていない問題を研究させていたのだけど、ダイアンは一人娘のメアリーを残して自殺してしまったの。イブリンはそれを自分が原因だとは思わず、今度は孫のメアリーに同じことをさせようとする。だけど、フランクは姉だったダイアンの「普通の子供に育てて欲しい」という願いのとおり、特別なことのない子供らしい子供にしてあげたいと思うわけ。
人類の進歩を担う子供?
 二人の意見はもちろん合わなくて、イブリンはフランクから親権を取り戻そうと裁判を起こします。そこで自分の娘だったダイアンについてこう陳述するのです。
「彼女(ダイアン)は普通の人とは違い特別なの。そう言う人は特別な問題を抱えてる。彼女の才能は想像を超える、10億人に一人よ。
 母と娘の関係を超えて責任を負った。世界を変える偉大な発見をする頭脳の持ち主はラジウムより希少。彼らなしでは進歩はないの」
 それに対し、フランクはこう言うのです。
「ダイアンはメアリーに子供でいて欲しかった。普通の人生を。友達をつくり、遊んで、幸せに」
家族の幸せとは?
 劇中のメアリーが持つ頭脳は”10億人に一人”と言われてますから、我々がそんな子を授かる可能性はほとんどないので心配する必要はなさそうです。だけど、日々育っていく子供に何を教え、どう導くのか、何がその子にとって一番の幸せなのか、悩まれる方は多いんじゃないでしょうか。一度しかない子供時代を勉強だけで浪費させてしまうのは悲しい気持ちもあるでしょうし、かと言って将来落ちこぼれにはなって欲しくない。結局は子供が大人になって振り返ってみるまで、それが正しかったのかどうかは誰にもわからないですよね。
 劇中のイブリンは自分の理想を無理やり子供に押し付けている、人間味の足りない人物に描かれていますけど、彼女だってこれほどの逸材の能力が発揮されないで終わってしまったら、人類にとって損失だ、と言う思いもきっとあると思うのです。変な使命感というか。それもまた一つの考え方ですよね。7歳の子供が自分で正しい将来を選べるわけではないでしょうし、その結果には誰も責任を持てないのですから。
 さて、結局メアリーがどうなってしまうのかは、映画でご覧いただければ。メアリー役のマッケナちゃんの演技が素晴らしくて、可愛くて、賢くて、本当に素敵な女の子を演じてくれています。メアリーが泣くと自分ももらい泣きをしてしまう程に。ある意味役者としてのマッケナちゃんこそが天才なんじゃないの。

 そんなわけで、映画「ギフテッド」の紹介でした。「天才児」というテーマと言われて思い浮かぶ映画といえば、「天才スピヴェット」、「リトル・ダンサー」かな。どっちも素晴らしい映画なので合わせてオススメしときます。

  

1月

14

これも一つの解釈なのかな・・・「ゴースト・イン・ザ・シェル」

By ono



ハリウッドが日本のアニメを実写化した「ゴースト・イン・ザ・シェル」
 「攻殻機動隊」というと非常にファンの多い漫画・アニメ作品ですね。人間が直接「電脳」と呼ばれるネットワークに接続できる近未来の世界を舞台に、内務省直属の攻性公安警察組織「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)の活躍を描いた作品群で、本作はハリウッドによる初の実写化という触れ込みで非常に話題になりました。脳以外身体の全てを義体化した”少佐”こと草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じています。

■あらすじ
 ネットに直接アクセスする電脳技術が発達し、人々が自らの身体を義体化(=サイボーグ化)することを選ぶようになった近未来。脳以外は全て義体化されたエリート捜査組織「公安9課」は、サイバー犯罪やテロ行為を取り締まるべく、日夜任務を遂行していた。
 そんな中、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバー技術の破壊をもくろんだテロ組織による事件を解決すべく、少佐は同僚のバトーらと共に捜査にあたるが、事件を調べていくにつれ、自分の記憶が何者かによって操作されていたことに気付く。
 やがて、真の自分の記憶を取り戻していく少佐は、驚くべき過去と向き合うことになる・・・(wikipediaより

■様々に展開する攻殻機動隊ワールド
 映画の話をする前に、元になっている作品を一応確認。原作となっているのは士郎正宗による1991年発行の漫画です。その後、1995年に押井守監督による劇場版アニメが公開され、2002年にはTVアニメ版が公開されました。
 今回の実写版は劇場版アニメを色濃くトレースしており、本編と全く同じカット割りのシーンなども多く登場します。シリアスで笑わない素子も劇場版のキャラクターを参考にしていると言っていいのではないでしょうか。これは劇場版アニメがアメリカで大ヒットしており、当時ビデオがビルボードチャートで1位を取ったこと等も大きな要因なのだと思います。

 劇場版アニメでは人間が電脳化されてネットワークに直結し、脳の情報すらも書き換えられるようになった時代、本当の自分とは何か、人間の魂(作品中では「ゴースト」とも呼ばれる)とは何か、といった存在の有様が一つのテーマとなっていたように思います。漫画版及び劇場版では素子は自称「情報の海の中で誕生した生命体」であるハッカー「人形使い」に共鳴し、その生命体と融合を図ろうとするのです。
 劇中、素子はこんなことを呟いています。

人間が人間であるための部品が決して少なくないように、自分が自分であるためには、驚くほど多くのものが必要なの。
他人を隔てるための顔、それと意識しない声、目覚めの時に見つめる手、幼かった頃の記憶、未来の予感、それだけじゃないわ。
私の電脳がアクセスできる膨大な情報やネットの広がり、それら全ては私の一部であり、私と言う意識そのものを生み出し、そして同時に、あたしをある限界に制約し続ける・・・


■で、今回のハリウッド実写版は
 先ほども書きましたが、劇場版アニメを下敷きにしている本作は、原作を観ていると思わずニヤリとしてしまうような場面やオマージュが多く、スカーレット・ヨハンソンのビジュアルもとても素敵で、一般的に楽しめる作品になっていると思います。映像的にもレベルは非常に高いです。さすがハリウッド。お金をかけた映画はちゃんと外さないように仕上げてあります。でもね・・・

 この映画、元々の劇場版アニメが主題にしていたであろう、「電脳化された時代、人が人であるとはどういうことなのか」っていうテーマを、丸ごとアレンジしちゃってるのよね。あらすじにも書いてあるけど、素子が本来の自分の記憶を探して自分の過去と向き合う、いわば「自分探し」が目的になっているんです。いつの時代も自分探しは人気あるテーマだしね。これによって、話はすごくわかりやすいストーリーになったんだけど、本来の作品が醸していたサイバーパンクさが微塵も無くなってしまった。とんがった部分が削られたことで、これといった強烈な特徴がない映画になってしまった、とも言えるんじゃないかなあ。だから原作に思い入れのある方には物足りないです。逆に普通のSF映画として楽しむぶんには文句なし。

 個人的には冒頭で出てくる芸者ロボ↑が好き。こういう独特の味をもっと出してくれたらよかったのになあ、と思いました。あまり攻殻機動隊に思い入れのない人が観た方が楽しめるのかな。また、この作品を機会に原作アニメを観てみるというのも面白いと思います。今観ても十分楽しめるクオリティだと思いますよ。

  

1月

4

2017に観た映画から、面白かったものベスト5をご紹介しますよ。

By ono



■新作ではありませんけれども
 ここ何年か、年間55本くらいの映画を観ております。映画好きな人はもっとたくさん観ていらっしゃるんでしょうけど、私はなかなか時間が取れず、この辺が限界です。さて、今回は昨年観た作品で個人的に面白かったものをいくつかご紹介したいと思います。何か面白い映画ないかなーという方の参考になればいいな、と。ちなみに昨年ブログで紹介した映画は含みません。あと、基本的に新作ではないです。


1)ダラス・バイヤーズクラブ(2013年・アメリカ)
 本当に素敵な映画です。エイズで余命を宣告されたロンが自ら本当に必要な薬を探し出し、遂にはそれを同様に苦しむ人たちへ配ることを考え始める。ガリッガリに痩せたロン役のマシュー・マコノヒーのらんらんとした目つきは凄みを感じさせ、アカデミー賞の主演男優賞を受賞したのも頷けます。
 自堕落で破天荒だったロンが病気について勉強を重ね、医療業界の矛盾に気づき、それにたてつこうとする。気付かないうちに彼が様々な人に慕われていく様は、観ていて本当に笑顔になります。
 幸せになれる映画。実話です。

■あらすじ
 1985年ダラス、電気技師でロデオ・カウボーイのロン・ウッドルーフは「エイズで余命30日」と宣告される。当時まだエイズは「ゲイ特有の病気」だと一般的には思い込まれており、女好きであるロンは診断結果を信じない。しかし、詳しく調べるうち、異性との性交渉でも感染することを知る。友人や同僚たちに疎んじられ、ロンは居場所を失ってゆく。
 当時臨床試験が開始されたばかりだった新薬、AZTの存在を知ったロンは主治医に処方してくれと迫るが、「安全性が確認されていない薬を処方することはできない」と突っぱねる。AZTを手に入れるべく、教えられた医師をロンが尋ねたところ、彼はそこで驚くべき事実を耳にするのだった・・・

 続きは下からどうぞ。
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11月

23

いつも通りの作風でモヤモヤさせてくれるドゥニ監督、良いんですかこれで…「ブレードランナー2049」

By ono



 公開から結構時間が経ってしまいましたけど、観に行ってきました。「ブレードランナー2049」。今さら説明するまでもありませんが、1982年に公開されたSF映画「ブレードランナー」の続編になります。「ブレードランナー」の設定は2019年の未来でしたが、今度は2049。あれから30年が経過したことになっています。というか、最初のブレードランナーって2019年の設定だったんですね。あと2年で来てしまいますけど良いんでしょうかこれで。

ブレードランナー(2019)
 一作目の「ブレードランナー」で描かれている未来世界では、人類が既に宇宙に移住して惑星の開拓などを行っており、その労働力として人造人間「レプリカント」が製造され、従事しているのです。ただしレプリカントは製造後に数年経つと感情が芽生え、人間に対して反抗するため、4年の寿命が設定されています。また、人間社会にこっそりと紛れ込むレプリカントが出るため、「解任」と言って抹殺しなければならず、その任務を負った捜査官が「ブレードランナー」と呼ばれていました。

 説明が長くてごめんなさい。1作目の主人公はブレードランナーのデッカード(ハリソンフォード)なのですが、彼は任務を遂行した後、脱走した女性型レプリカントのレイチェルと共に二人で逃走して映画が終了します。二人の行く末が、実は「2049」の方でもストーリーの要になっているのです。

ブレードランナー2049のあらすじ
 2049年、最新型レプリカントの「K」はブレードランナーとして旧式レプリカントを探し出し「解任」する職務についていた。そんな中、レプリカントのサッパー・モートンを「解任」した際、庭に植えられた木の下に古い箱が埋まっているのを見つける。中には遺骨が入っており、女性型レプリカントのものであることが判明する。後日、この遺体を分析すると驚愕の事実が判明。Kの上司、ジョシは今回の事実公表によって人間社会が大混乱することを危惧、この女性型レプリカントに関係する全ての人間を調べ、あらゆる痕跡を抹消することを命令するのだったが・・・

2時間43分の尺
 映画の感想ってなると、一言目に来るのはやっぱり「長かったな・・・」でした。2時間半を超えて来るとちょっときついな、正直。それほど派手なアクションシーンが続くわけでもないし。映像表現そのものはどこを切り取っても確かに美しい。これはさすがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と言ったところ。だからブルーレイで出たらもう一度じっくり楽しみたいな、と思います。あまりはっきりと語らせず、モヤモヤしたまま進行するのもこの監督らしいといえばらしいんですけどね・・・

レプリカントと人工知能
 この映画の主人公はレプリカント。これははっきりと示されていて、かつそのことを周囲の人間も知っているようです。彼が住む自宅のドアにも「スキンジョブ(人間もどき)」といたずら書きされる始末。だけど彼は微塵も「人造」な挙動を感じさせません。何故なのかな。それだけ最新型のレプリカントはより人間と見紛うほど精細にできているのかな。彼は仕事以外ではあまり他人と関わりを持たず、自宅ではAIが作り出すホログラムの女性と暮らしています。この女性、劇中では途中からバージョンアップして、天井に取り付けられたレールの下以外の自由な場所に出現することが可能に。実体がないだけでどこへでも一緒に出かけられる恋人と化したのでした。で、この女性を演じているのがアナ・デ・アルマス。とにかく可愛くて、見ているこっちが好きになりそう。いや本当に。

 このホログラムの女性「ジョイ」なんだけど、「K」と完全に恋に落ちます。もちろん、そういうプログラムなのかもしれないけど、最後の方なんか、わざわざ街の娼婦を自宅に呼び、自分のホログラムを被せて「K」と擬似セックスをするまで行ってしまいます。ここまでくるともうプログラムとかの域を超えちゃってない?
 結果、AIもレプリカントも、ほとんど人間と変わらないなってことに。というよりはむしろ「人間が様々な姿になって出現している」ようにも見えます。だいたいウォレス社で試験的に生産した最新型レプリカントなんて、社長のウォレスがメスで切りつけたら血が飛び散ってるし。それもう人間じゃないの?で、その様子を後ろで見ている秘書のレプリカントはそれを見て涙流してるし。普通に人間じゃないの?地中から見つかった遺骨がレプリカントのものだっていうし、死んで骨だけ残るなんてもう完全に人間じゃないの?というかこれってクローン?レプリカントってクローンのことなの?そんなことを考え出すと映画の最中もやっぱりモヤモヤ。この辺の詳細についても明確には語られないのです。じれったいよドゥニ監督。そういう芸風なんだろうけど。

人間とそれ以外を隔てるものとは
 結局、レプリカントもAIも、様々な感情を持つことで人間と差異が無くなってくると、人間と「それ以外のもの」とを隔てる一線とは何なのか、という疑問が生まれます。感情を持つ「それ以外のもの」に魂はあるのか、という問題でもあるんですが、これもブレードランナー2049に置ける一つの大きなテーマ。生み出されたもの、創り出されたもの、有機と無機・・・映画の演出的には、敢えて二つの違いを見えづらくしたことで、それぞれの本質とは何なのかを浮き彫りにしたかったのかも知れませんね。

 前作の「ブレードランナー」は、「いつも暗くて雨」「人種の入り混じった汚い雑踏」「変なオリエンタル」という、今までにないハードな未来を描き、一つの未来のスタイルを作り上げました。ブレードランナーの世界観に影響を受けてる、もしくはパクっている作品を探し出したらキリがないほどです。そういう意味では一つの金字塔とも呼べる作品となった前作と比べてしまうと、今作はどうだったのか。もちろん、映像の美しさはちょっと他では見られないレベルですし、難解な部分も含めて、徐々に評価は変わって行くのかも知れません。一つ言えるのは、本作を見た人同士でおしゃべりしたら楽しいだろうな、ということ。わからないことが多いだけ、あれこれ想像、妄想する楽しみがあるのかも知れません。興味と時間と体力のある方は是非ご覧になってはいかがでしょうか。そんで、感想聞かせてください。

  


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